大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和50年(行ツ)91号 判決 1976年11月01日

東京都府中市白糸台五丁目七番地の四

上告人

細川勇五郎

右訴訟代理人弁護士

向山隆

東京都府中市分梅町一丁目三一番地

被上告人

武蔵府中税務署長

南哲也

右指定代理人

二木良夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和四九年(行コ)第一七号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五〇年六月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決す

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人向山隆の上告理由について

所論の更正処分における総所得金額の認定になんらの違法はないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立つて原判決を論難するものであつて、すべて採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本林譲 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 栗本一夫)

(昭和五〇年(行ツ)第九一号 上告人 細川勇五郎)

上告理由

上告代理人向山隆の上告理由

第一、東京高等裁判所が為した原判決は上告人(原審控訴人・以下同じ)の申立てた控訴を棄却する理由として東京地方裁判所の為した第一審判決理由を引用している。

よつて第一審判決理由を検討するに上告人提出援用の証拠によれば本件土地七三、八六四坪の買収代金の坪当り単価は金二、一〇〇円(乙第四号証の八)、金二、二〇〇円(代替地買収に関する甲第四十三、四十五号証)、金二、七〇〇円、金二、六〇〇円(乙第四号証の十の二)のものがあり買収単価二、〇〇〇円を割るものは一件もないのみならず、別途買収した南多摩郡七生村平山字一四号一六一四番の一、二宅地三三三坪の買収単価の如きは金四、二〇〇円である。ところが第一審判決は何ら適格な証拠がないのに本件必要経費の大部分を占める土地買収代金の坪当り単価を平均して一率に金二、〇〇〇円と極めて低廉に認定している。抑、事実の認定は事実審裁判所の専権に属するとは云え、証拠と事実認定との間には、おのずから客観性乃至普遍性且合理性がなければならないのに拘らず第一審判決並に之を踏襲している原審判決は適格な証拠に基かずして、坪当り買収単価を恣意的に臆測断定し一率に金二、〇〇〇円と認定しているものであつて、而かも斯る単価を認定するにつき如何なる単価を如何に平均して平均単価二、〇〇〇円なる数字を算出したのかにつき、上告人を納得せしめるに足る計数上の根拠を全く明かにしていない。自由心証主義と雖も裁判所の為す証拠による事実認定の判断には、おのずから条理と規制とがありこれを超えた独裁的、恣意的判断は法規に違反するものといわなければならない。

本件に於ける前記土地買収単価の認定は、正に斯様な法規(民訴第三九四条、第一八五条)に違反するものといわなければならない。

第二、第一審判決及原審判決はいづれも上告人主張の必要経費のうち、

(一)(1) 地元利益分配金につき、上告人が被買収者らの代表者中村仲次郎外一名に対し合計金一、〇〇〇万円を貸付けたことは認められるが、右金員が地元利益分配金の前渡金かどうか認められないから上告人の主張は認められない。地元利益分配金支払の事実は其の性質上上告人に於て立証容易であるに拘らず其の立証を遂げていない。

(2) 又必要経費のうち、農民税金引当金、地元懸案処理引当金は上告人と大和間に於て清算をした際右引当金三、五二三、七五八円を支払うことの清算をしたことは認められるがそれらの各引当金が支払われたことは認められない。上告人主張の右各引当金支払の事実は其の性質上立証が容易であるのに拘らず上告人はその立証を尽さない。

(3) 必要経費のうち印鑑料の支払についても其の立証が容易であるに拘らず上告人はそれを為さない。

として右(1)、(2)、(3)についてはいづれも其の支払がない。

本件事業に於て上告人が支払つた経費は土地買収代金と建財名義料のみであると認定している。然し乍ら斯る認定は之より先被上告人自身が既に上告人主張の必要経費のうち其の他の経費二八、一三七、三一四円の支払を認め(第一審判決五枚目裏二行乃至六行)ているから此の点に関する裁判所の叙上認定は民事訴訟法の基本原則である弁論主義乃至処分権主義(民訴第一八六条)に抵触する法令違反があり右は判決に影響を及ぼすこと明かである。

(二) 本件の如き多額の資金を投じて多数農民を相手方として広大な農地(一部宅地)を買収した上之を造成分譲する事業を遂行するに当つては多数従業員に対する給与、機械器具其他の消耗品代、関係人、関係官庁との折衝、打合せ、会議、接待、飲食其他の費用は勿論其の名目如何を問わず前記(1)、(2)、(3)其他類似の経費の支払を余儀なくされることが不可欠であることは経験則上明かであるところ、本件に於ける上告人主張の前記(1)、(2)、(3)の各経費の支出は帳簿上且証人或は上告人本人の尋問の結果により之を認むるり足り、上告人は可能なあらゆる立証を尽しているのに拘らず肯てこれを措信せずとして退けたうえ偶々領収証が整つていないことの故を以て、斯様な支出はないものと認定しているのは条理に違背するのみならず此の種訴訟事件に於ける経費支出の立証責任を全面的に上告人にのみ押付けて負担せしめるものであつて右は立証責任分担の法則の適用を誤り判決に影響を及ぼすこと明かな法令の違反があるものといわなければならない。

第三、第一審判決並に原審判決は予かじめ上告人の主張に備えて次のような予備的事実認定をしている。即ち右判決は坪当りの土地買収単価を余りにも低廉に認定した為め必要経費(大部分は土地買収代金)が甚しく過少となり上告人主張の貸倒れ損害金、地元利益分配金外引当金二口其他の経費につき審理を用いずしてその全額を必要経費と認定したとしても計数上上告人の係争年の事業所得は本件更正処分により査定せられた所得金額を大巾に上廻ることになり、結局更正処分は不当に上告人の利益を害するものでないとし、以て苦しい辻褄を合わせていることは本件土地の買収単価の認定が如何に不相当であるかを裏付けるものと云わざるを得ない。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例